孤独な魂と魂のハードボイルドBL小説 高村薫「黄金を抱いて翔べ」

前回、『BANANA FISH』で魂の救済とかについて描かれてる!って言ったので…ついでにこちらも。

「ミステリの女王」高村薫先生によるサスペンス作品でありデビュー作。…なんですが、高村薫先生といえば私にとってはむしろBLの女王様…。

好き嫌いは分かれそうですが、男と男の熱い絆、ブロマンス、そして硬質な文体だからこそにじみ出るえもいわれぬ淫靡なエロティシズム、孤独な魂と魂の共鳴。そんなBLが気になる方はぜひ高村薫先生の作品を読んでみてください…!

さて、『黄金を抱いて翔べ』ですが、大阪の街でクールにしたたかに生きている無名の男たちの大胆な犯罪を緻密にドラマチックに描いた作品として知られているのですが、これまたバナナフィッシュと同じくその根底には男同士のせつなくも美しい愛の物語があるのです。

このあとネタバレ書きます↓

主人公・幸田は「人間のいない土地」をさがし、無気力に無為に生きる青年。

彼には幼い日に負った大きなトラウマがありました。

その幸田が北川という大胆で豪胆な男に「銀行から金塊6トンを強奪しよう」と誘われ、計画に参加します。

それは途方もなく無謀な犯罪計画なのですが、なんの味もしない砂をただ噛み続けるような人生にかすかな味を求めるように、かすかな色やにおいを求めるように、幸田は善悪の判断なくその誘いに乗ってしまうのです。

幸田にとっては生きることも死ぬことも、エキサイティングな冒険も悪に手を染めることも、そんなに大きく違うことではないのかもしれない…。

目に映るすべてのものはなんの温度ももたず色ももたず、乾ききった荒野にかさかさと転がっているだけ。

その彼の目の網膜に、北川の語る6トンの金塊の、まばゆい黄金色のかがやきだけがちらりと届いたのかもしれません。

そこからドラマチックなクライムストーリーが描かれていくのですが、それは幸田の魂の救済と昇華の物語、人ならぬものとして生きる人が「人」に成り、人として人に出会い人として人を愛する(人への愛を思い出す)ストーリーでもあるのです。

BL的な萌えの話をしますと、幸田はモモという謎の青年を計画のメンバーに加えるのですが、このモモさんというのがミステリアスで儚い佇まいのとてつもなく魅力的な青年で…これは幸田とモモのせつないラブストーリーでもあるのです。

実はモモは北朝鮮の工作員だったのですが、国に裏切られ国を捨てて北川たちの計画に参加し、そしてまるで捨てられた子供同士がお互いの体温で暖をとりあうように幸田との仲を深め、やがて命を懸けて愛し合うほどになるのです。

計画の準備が完了し、計画実行を前にメンバーそれぞれが自分の人生の清算をすませるなか、幸田とモモは狭いアパートにこもりきって数日、死を覚悟した状態でひたすら貪りあうように愛し合います。

そして運命のクリスマスイブの夜、北朝鮮の工作員の襲撃があり…

これ、バナナフィッシュのときも言ったけど、生き物の命とか一般的な人間の幸せとかっていう尺度から言ったらとても虚しくて悲しい結末かもしれないんですが、魂の物語としてはまぎれもなくハッピーエンドだと私は個人的に思うんです。

最後、幸田に主犯格の北川が嬉しそうに言います。(ちなみに、この北川という男がこれまたほんといかれた狂人で、とても破滅的で魅力的なのです…。そして北川から幸田への執着がこれまたほんっとにたまらないのですが!!)

「やっとこっち側に来てくれたな」

やっと人間になってくれたな!「人間のいる土地」に来てくれたな!ようこそ幸田!

…このセリフにすべてがつまっているように感じるのです。

追記 映画版について

映画版『黄金を抱いて翔べ』もすごくいいのでおすすめです!

BL的なシーンは省かれてしまってますが、とてもよくできた映画なので原作を読んだあとに観たら楽しめるかと思います。
個人的にはかなり原作に近いイメージで、その世界観に入り込めました。

個人的にひとつだけ言わせてもらうと、モモさん役の俳優さんのビジュアルがちょっと健康的すぎるかな…。でもかっこよくてかわいくてよかったです!

そして北川役の浅野さん、最高でした!

DVD↓


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