桜の季節に読みたい…ハードミステリでありながら全編ピンク色に染まった少女マンガ系BL?高村薫「李歐」

高村薫先生の作品をご紹介するのは二度目です。

ミステリの女王でありハードボイルド系BLの女王とも言える高村先生のこちらの作品「李歐」なんですが、ちょっと他の高村作品と比べてフワフワして少女マンガ色が強いというか、腐女子にさらに優しい仕様になっているというか…

高村ファンからは賛否分かれてるかもしれないんですが、高村作品が初めてという方にもとても読みやすく入り込みやすい作品だと思います。

というか私はじつは「李歐」から入った高村ファンなのですが、初めての作品としてはとても読みやすかったと思っています。

いろんな意味でちょっと夢夢しいところが強いですが、こんな壮大でうっとりと酔えるファンタジックな大河BLもなかなかないのでは…

読んでいるとまるで本全体がピンクに染まっているような錯覚を覚えるようなお話で、これからの桜の季節に読むのにぴったりだと思います。

※ただし高村作品に顕著なミソジニー感、女性性だとか母でありながら女性である存在だとかへの嫌悪感なんかがけっこう丸出しでまあちょっとアレなんですけど…。そこは以前ご紹介した「黄金を抱いて翔べ」もすごかったですけど…。
私はまさにミソジニーこじらせて腐女子になってるとこがあるタイプなんで、それはむしろ気持ちよく飲める毒でもあるんですけどね…。

以下、ネタバレあります↓

これはですね…

幼児期に負ったトラウマをかかえ自堕落に無感動に生きる吉田一彰という大学生の青年が、李歐という名のものすごくハイスペックで魅力的な謎の中国人青年に出会って一目ぼれして、それもお互い両想いで、灰色だった一彰の人生が真ピンクに染まっていって、まあ紆余曲折はあるし年月はかかっちゃうけど最後は最高の結婚エンドを迎えるというような、ちょっと恥ずかしくなっちゃうくらいのはちゃめちゃハッピーシンデレラストーリーBLなんですよ…

少女マンガというよりハーレクインかな?

あのですね、なかなかにご都合主義なBLです。

腐女子・高村薫の夢BLって感じです。(高村先生は李歐にかぎらずご自分の作品をBLと思って書いていないと言われてるようですが…。でも実際BLやん…つかBLでええやん…BL最高やん…)

主人公・吉田一彰はパッと見、顔と頭がいい以外にとくにこれといって目立つ美点が見えてこないようなぼんやりとした無気力な青年なんですが、とにかく男にも女にもなぜかモテまくります。

女性と結婚して子供をもうけながらも、ずるずるとヤクザの親分の愛人を続けたりもします。

顔と頭がいい以外にとくにこれといった魅力が描かれない主人公なんですが、とにかく魔性の魅力で男も女も惹きつけては破滅させていきます。

まさにオム・ファタルです。

この一彰に魅力を見出せないと、この小説ちょっと読むのがつらいかもしれないんですが…

なんでしょうね、なぜかこの主人公に私も心惹かれるところがあるんです。(まあムカついたりもするんですが…笑笑)

地味で堅実そうでありながら本当はとても破滅的で、ギラギラとした悪の花を心のうちに秘めているようなところがあるからでしょうか。

地味でひ弱そうな日本人青年が、死の匂いをぷんぷんさせた鮮やかな凶器のような中国人スパイと対等に向き合い、死や破滅を恐れるどころか受け入れ愛し、ひそやかに守り、そして最後はその死と破滅をまとった男のもとへとすべてを捨てて飛び込んでいく…

この小説にはたびたび桜の咲いている情景が出てくるんですが、桜の花のもつあの淡くぼんやりとして儚い様子でありながらも、同時に死と狂気の匂いもはらんでるような底知れなさやおそろしさといったものが、一彰という主人公のもつ不思議な魅力に重ね合わせられているような気がするんです。

散ることを恐れない、破滅をよろこんで受け入れるようなところなんかも。

あの、余談なんですが、以前このブログでご紹介した大好きな吉田秋生先生の作品「櫻の園」で「桜の木の精って男なんだって」っていうセリフが出てきますが、ほんと桜のイメージに合うのってじつは女性ではなく男性なんじゃないかなって思うんですよね。

女性は堅実に力強くしぶとく生きていけるけれど、男性は強くありながらもどこかポッキリといきそうな儚さがあるので…

武士道と桜の関係とかからも、やっぱり桜って男にこそ似合う花なんじゃないかなと。

とにかく桜のような男というのは私たち日本人にとってなんだかとても心惹かれる魅力的な存在なのではないかと思うのです。

映画「ご法度」の松田龍平とか、まさに!という感じなんじゃないでしょうか。

以上、余談でした。

さて、いっぽう一彰の相手である李歐なんですが…

これがですね、ほんと少女マンガの王子様みたいな、空想上の生き物みたいな男なんですよ。

まあ実際空想上のキャラクターなんですけど。

めちゃくちゃ美しい。とにかく華やかで美しい。

一彰が桜なら李歐は艶やかな緋牡丹のような男なんです。

その百花の王である大陸から来た緋牡丹が、島国にひそやかに咲く桜になぜか心惹かれ、ほんの少しの約束を胸に十数年その桜のことを想い続け、そして最後は自ら築き上げた王国にその桜のような男を招きいれ伴侶にするという…

ひええ…ほんとなにこのハーレクイン王子。

もうほんっとスパダリ。

OKバブリー。

それもそんな少女マンガのキャラみたいなハイスペック王子様が、高村薫というすごい筆力を持った作家によって描写されていくわけですから…

濡れた目の上に光るネオンの灯や、にやりと笑った口のその艶やかさや、とてつもない影を背負いながらも瞬間垣間見せる少年らしさや…

それらがまるで目の前にリアルに存在してるかのように見えてくるわけです。

空想上のすごい生き物を、すごい作家が書いてみたら…

やっぱすっごくすごかった!!わーーーい!!

っていうかんじ…^^

以前他の高村ファンの人と話してて「私『李歐』好きなんです」って話をしたとき、その人に

「え~~~~~!!あんなの少女マンガじゃん!!あんなのご都合主義でリアリティもないしフワフワしすぎでしょ」

って言われたんですが…

いやまあ確かにそうなんですが…

むしろこんなファンタジックでご都合主義な少女マンガBLを、高村薫が高村薫の文章力で書いてくれたっていうことがすごすぎない!?!?ねえ!!!!!

とも言いたいんですよね…

いやあすごすぎるでしょ…

一彰と李歐の二人を除いてはわりと周りが破滅していってるし、そんなにハッピーハッピーなだけのお話というわけでもないんですが、ただ推しカプが幸せであってくれたらそれでいいの!たとえ世界が滅びようとも!っていう壮大なメリバBLが大好きっていう腐女子の方にはめちゃくちゃたまらないお話なのではと思います。

好き嫌い分かれるとは思いますが、まあとにかくすごいお話なので…!

すごい筆力で書かれたすごいBLを読んでみてくれ…!

…というわけで、できればこれからの桜の季節にぜひどうぞ。

そしてぜひ、このハッピーBLの桜色に脳を染め上げられてみていただきたいです。

…ちなみに、高村先生の初期の作品に「わが手に拳銃を」という小説があって、それを元に書き直したのが「李歐」なんだそうですが…

これまったくちがうお話なんです!!!!

はい、ネタバレしますよ!!↓

いちおう一彰と李歐という同じ名前のキャラは出てきますが…

「わが手」の李歐はクレイジーで明るくてストーカー気質のハッピー外国人スパイって感じなんですよ。わんこ攻めって感じなんですよ。

作品が全体的に明るいし少年マンガみたい。

一彰も明るいし結構しっかりしてるし。

そして…

咲子が死なない!!!!一彰を捨てて家を出て行く!!!!笑!!!!

じつは今となっては私はこっちの「わが手」のほうが「李歐」より好きなんですよね…

ブロマンスとかバディもののBLっていう感じで快活で。

今は中古しかないみたいですが、ご興味と機会があったら読んでみてください~~!!

↓レビューもやっぱり「李歐」と比べて書かれてるものが多いですね。「わが手」のほうが好き、面白いと言ってる人が多いかな。とにかく好みの問題ですけどね。オススメです!!

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